
はじめに:研究を社会に届けるための「言葉」と「ビジュアル」の力
「研究にネーミングやキャラクターなんて、必要ですか?」
こんな質問を、研究者の方からよくいただきます。確かに、学術研究には直接関係のないクリエーティブ要素です。論文に必須なわけでもありません。
しかし、27年間の現場経験から、私たちは確信を持って言えることがあります。
研究成果を社会に届け、実装していくプロセスにおいて、ネーミングやビジュアル化は、想像以上に大きな力を発揮する――
当社の創業者・金子は、広告代理店で製品の広告や販売プロモーション展開を手がけてきました。商品やサービスに適切なネーミングをつけ、ロゴを作り、キャラクターを展開することで、認知度を高め、ブランドを確立していく。そのノウハウを、大学の研究活動に応用できないかと考えたのが始まりでした。
実際、システム開発の発注仕様には含まれていないにも関わらず、研究プロジェクトにネーミングやロゴ、キャラクターを提案してきました。すると、その研究は学内外で話題になり、学際的な連携が生まれ、予算が増え、社会実装へと進んでいく――そんな展開を何度も目の当たりにしてきたのです。
今回は、実際に私たちがお手伝いした事例をもとに、研究ブランディングにおけるネーミングとビジュアル化の効果について、ご紹介したいと思います。
事例1:オンラインカウンセリング研究が大型プロジェクトに発展するまで
最初は小さなシステム開発案件だった
創業時、ある国立大学からカウンセリングのオンライン化に関するシステム開発のご依頼をいただきました。教育系の研究科が、対面カウンセリングをインターネット上で実現できないか、という先進的な研究プロジェクトでした。
当時、私たちに求められていたのは「システム開発のコーディネート」と「コンテンツ制作」。ネーミングやロゴの制作は、発注仕様には一切含まれていませんでした。
しかし、金子はこう考えたのです。
「この研究、本当に素晴らしい。でも、『オンラインカウンセリングシステム』という名前だけでは、一般の人には伝わりにくいのではないか。学内でも、他の研究科の先生方に知ってもらうには、もっと親しみやすい名前とビジュアルが必要じゃないか」
研究にネーミングとキャラクターを提案
そこで、発注仕様にはありませんでしたが、こんな提案をさせていただきました。
1. プロジェクト全体のネーミング
・専門用語ではなく、一般の方が検索しやすく、記憶に残る名称
・カウンセリングへの心理的ハードルを下げる、温かみのある言葉選び
2. ロゴデザイン
・学術的な信頼性と、利用者が安心できる親しみやすさを両立
・様々な媒体で使えるシンプルなデザイン
3. キャラクター設定
・メンタルヘルス領域特有の「相談することへの抵抗感」を和らげる
・老若男女が親しみを持てるビジュアル
先生方は最初、「そこまで必要でしょうか?」と戸惑われていました。でも、「研究成果を広く社会に届けるために、ぜひやらせてください」とお願いし、ご了承いただいたのです。
プロジェクト名が学内で話題に
ネーミングとロゴが完成し、プロジェクトサイトを公開すると、予想外の反響がありました。
まず、学内の他の研究科から問い合わせが来たのです。特に工学系の研究科から「このシステム、技術的にサポートできないか」という申し出がありました。
大学初の学際的コラボレーションが実現
教育系研究科と工学系研究科――通常は接点のない研究者同士が、このプロジェクトを機に協力関係を築きました。「親しみやすい名前とビジュアル」が、専門外の研究者にも興味を持ってもらえるきっかけになったのです。
社会実装への展開
さらに、プロジェクトの知名度が上がったことで、次のような展開が生まれました。
1. 実証実験の拡大
・駅や教育センターにオンラインカウンセリングの窓口を設置
・一般市民が気軽に利用できる環境づくり
・キャラクターとロゴが、窓口の「顔」として機能
2. コンテンツデータベースの構築
・30以上の専門領域の研究者がカウンセリング動画を提供
・統一されたビジュアルで、膨大なコンテンツを整理
・ネーミングが、プロジェクト全体の一貫性を保つ役割に
3. 大型予算の獲得
・プロジェクトの知名度向上により、文部科学省の大型予算が採択
・バーチャルカウンセリングシステムの本格的な開発へ
・研究が社会実装フェーズに進む
「研究内容が優れていれば、名前なんて何でもいい」――そう思われるかもしれません。しかし、どんなに優れた研究も、人に伝わらなければ、広がりません。
ネーミングとビジュアルは、研究を「人に伝わるもの」に変換する、重要な翻訳装置なのです。
事例2:心理評価ソフトが業界スタンダードになるまで
専門性の高い研究ツールをどう一般化するか
ある教育系大学の研究室と共同で、発達障害児の心理評価に関する研究ツールの開発に携わりました。
この評価法は学術的に非常に優れたものでしたが、現場の保育士や教員にとっては「難しそう」「専門的すぎる」というイメージがあり、なかなか普及しませんでした。
先生からのご相談は、「この評価法をCD-ROMで商品化したい。でも、どうすれば現場の先生方に使ってもらえるだろうか」というものでした。
商品化におけるネーミングとビジュアル戦略
私たちが提案したのは、以下のような戦略でした。
1. ネーミングの二層化
・研究者向け:学術的な正式名称はそのまま残す
・現場向け:分かりやすく、親しみやすい副題をつける
・両方を併記することで、専門性と親しみやすさを両立
2. アニメーションキャラクターの開発
・子どもが見ても楽しめるビジュアル
・評価ツールとしての「お堅さ」を和らげる
・保育現場で使いやすい、柔らかい雰囲気
3. パッケージデザイン
・研究ツールらしい信頼性
・教育現場で手に取りやすいデザイン
5,000枚販売のヒット商品に
成功の要因:
1. ターゲットの二層化に成功
・研究者には学術的妥当性を訴求
・現場の実務者には使いやすさを訴求
・ネーミングの工夫が、両者のニーズに応えた
2. 心理的ハードルの低減
・アニメーションキャラクターが、「難しそう」というイメージを払拭
・保育士や教員が「これなら使えそう」と感じた
3. 業界スタンダードとしての地位確立
・分かりやすい名前が、口コミで広がりやすかった
・「〇〇といえば、あの評価法」という認識が定着
研究の商品化におけるブランディングの重要性
この事例から見えてくるのは、研究の商品化において、ブランディングは不可欠だということです。
学術論文として優れていても、商品として成功するとは限りません。なぜなら、研究者と実務者では、求める情報も、受け取り方も違うからです。
ネーミングとビジュアルが果たした役割:
専門性と親しみやすさの両立
・学術的信頼性を損なわず、現場でも使いやすく
ターゲットごとの訴求の最適化
・研究者には正式名称、実務者には副題
・それぞれの関心に応じた見せ方
口コミでの広がりやすさ
・覚えやすい名前、印象的なビジュアル
・「あの教材、知ってる?」と話題になりやすい
継続的な認知度の維持
・ブランドとして記憶に残る
・類似商品が出ても、「元祖」として認識される
研究ブランディングの5つの効果
これまでの事例を通じて、研究にネーミングやビジュアルを加えることで、どんな効果が生まれるのか。私たちの経験から、5つのポイントにまとめてみました。
1. 学際的連携が生まれやすくなる
専門用語だらけの研究は、専門外の研究者には近寄りがたいものです。
しかし、親しみやすいネーミングとビジュアルがあると、「面白そう」「自分も関われるかも」と感じてもらえます。
効果:
・異分野の研究者からの問い合わせ増加
・学内コラボレーションのきっかけに
・新しい視点や技術の導入
2. 一般市民・実務者への普及が加速する
研究成果を社会実装するには、一般の方や現場の実務者に理解してもらう必要があります。
ネーミングとビジュアルは、専門外の人にとっての「入口」になります。
効果:
・心理的ハードルの低減
・メディアに取り上げられやすくなる
・実証実験への参加者が集まりやすい
3. 予算獲得時のアピール力が高まる
科研費や企業スポンサーの審査では、研究内容の優秀さだけでなく、「このプロジェクトは社会に広がるか」も評価されます。
分かりやすいネーミングとビジュアルは、プロジェクトの「広がる力」を示す証拠になります。
効果:
・審査員の記憶に残りやすい
・プロジェクトの将来性を視覚的に示せる
・企業スポンサーが「投資したい」と感じる
4. 研究成果の商品化・事業化がスムーズに
研究を商品やサービスにする際、ブランディングは必須です。
最初からネーミングとビジュアルが確立されていれば、商品化の際にゼロから考える必要がありません。
効果:
・商品化のスピードアップ
・マーケティングコストの削減
・研究段階からブランドを育てられる
5. 研究者自身のブランディングにもつながる
プロジェクトのブランドが確立されると、それを率いる研究者の知名度も上がります。
「〇〇プロジェクトの△△先生」という形で、研究者個人のブランディングにも貢献します。
効果:
・メディア取材の増加
・講演依頼の増加
・優秀な学生・共同研究者が集まりやすい
まとめ:研究を社会に届けるために、一緒に考えましょう
研究にネーミングやキャラクターは必要か?
この問いに対する私たちの答えは、「研究を社会に届けたいなら、必要です」というものです。
もちろん、学術論文を書くだけなら、必要ないかもしれません。でも、研究成果を社会実装したい、一般の方に知ってもらいたい、他分野と連携したい――そう考えるなら、ネーミングとビジュアルは、強力な武器になります。
27年間、私たちが見てきたのは、ネーミングとビジュアルが研究を変える瞬間です。
・学内で話題になり、学際的連携が生まれる
・一般市民が興味を持ち、社会実装が進む
・予算が増え、プロジェクトが拡大する
・商品化され、多くの人に届く
こうした変化は、研究内容が優れているだけでは起きません。研究を「人に伝わる形」に翻訳する――その橋渡しをするのが、ネーミングとビジュアルなのです。
文責:金子弘行