なぜあの研究室には優秀な学生が集まるのか?学生獲得のためのWEB戦略とは?

研究者と大学院生がディスカッションしているイメージ画像

はじめに:優秀な学生(大学院生)を獲得する研究室のWEB戦略とは?

「今年も優秀な学生が来てくれなかった」「他の研究室に流れてしまった」そんなふうに感じる研究者の方は、意外と多い印象です。
研究の質が高いだけで自然に人が集まる、という前提は以前ほど成り立ちにくくなってるように思います。
そして比較対象は他大学だけではなく、同じ大学内、同じ研究分野の別の研究室になります。
学生が研究室をどう選んでいるのか。そのプロセスを踏まえて、伝える情報を整理し、戦略的に発信することが研究室運営の助けになります。ここからは実際の事例をもとに、優秀な学生獲得につながる広報の考え方を具体的に紹介します。

競合分析から見えた決定的な差別化ポイント―ある理系講座の事例

競合は学内にあり:研究室選択の実態

ある国立大学の理系講座から、ホームページ制作をご依頼いただき、その際、「優秀な学生を獲得したい」という相談を受けました。この講座は研究レベルも高く、教授陣も優秀。それにふさわしい、より優秀な大学院生を確保したいというご要望でした。

私が最初にヒアリングしたのは、学内の競合研究室についてでした。学生は大学院進学を決める際、複数の研究室を比較検討します。他大学もあり得ますが、まず学内での比較が重要です。学内で同じ研究分野をもつ、他の研究科、研究室のリストアップから始めます。

競合研究室との決定的な違いを探す

詳しく調査した結果、競合講座との明確な違いが浮かび上がりました。

競合講座の特徴

・卒業生の大半が大学・企業の研究職に進む
・専門分野でのキャリアパスが明確
・「研究者養成」を前面に打ち出している

該当講座の特徴
(それまで見過ごされていた強み):

・卒業生の進路が多様:コンサルティングファーム、金融、IT企業など
・データ分析・解析力という汎用性の高いスキルを習得
・研究テーマが実社会の課題解決に直結
・修了後のキャリアの選択肢が圧倒的に広い

この違いこそが、最大の差別化ポイントでした。しかし、研究室のホームページには「研究内容」しか書かれておらず、この強みが全く伝わっていなかったのです。

訴求内容を180度転換:研究内容から「未来の選択肢」へ

そこで、ホームページの訴求軸を大きく変更しました。
変更前:
「〇〇分野における先端的研究を行っています」
→ 研究内容の羅列のみ
変更後:
「データ分析力で、様々な業界で活躍できる人材へ」
→ キャリアの多様性を前面に
具体的には以下のコンテンツを追加しました:

1.卒業生の進路データの可視化:円グラフで業種別の就職先を表示
2.卒業生インタビュー:コンサル、金融、ITで活躍する修了生の声
3.研究テーマと社会課題の紐付け:「この研究が、こんな社会問題を解決する」という文脈
4.習得できるスキルの明示:「Python、R、機械学習、統計解析」など具体的なスキルセット
5.キャリアパスの選択肢:「研究者になりたい人も、企業で活躍したい人も、両方歓迎」というメッセージ

学生に訴求する5つのポイント―意思決定を動かす情報設計

学生が研究室を選ぶ際、何を重視しているのか。27年間の現場経験から見えてきた、5つの決定的なポイントを挙げていきます。

1. キャリアの具体的イメージが描けるか

学生の本音:「この研究室に入ったら、5年後の自分はどうなっているのか?」
多くの研究室ホームページは、研究内容の説明に終始しています。しかし、学生が本当に知りたいのは「自分の未来」です。

効果的な情報:
・過去5年間の修了生の就職先リスト(企業名・職種まで具体的に)
・卒業生インタビュー(3-5人、多様なキャリアパス)
・「研究職」「企業」「起業」など、複数の選択肢の提示
・OB/OGネットワークの強さ(「相談できる先輩が〇人います」)

2. 研究テーマの社会的意義が明確か

学生の本音:「この研究、何の役に立つの?」
特に近年の学生は、社会貢献意識が高い傾向にあります。純粋な学術的興味だけでなく、「この研究が社会をどう変えるか」を重視します。

効果的な情報:
・研究テーマごとに「解決する社会課題」を明示
・SDGsとの関連性(該当する場合)
・メディア掲載実績(研究が社会的に注目されている証拠)
・産学連携や企業との共同研究実績

3. 習得できるスキルが明示されているか

学生の本音:「ここで何が身につくのか、具体的に知りたい」
「高度な研究能力」といった抽象的な表現では不十分です。特に理系学生は、技術スキルの習得を重視します。

効果的な情報:
・プログラミング言語(Python、R、C++など)
・解析ツール(MATLAB、TensorFlow、統計ソフトなど)
・実験技術(特定の機器の操作スキルなど)
・ソフトスキル(プレゼン力、論文執筆力、プロジェクトマネジメント)

ポイントは具体的な固有名詞を使うこと。「データ分析力」より「Python、Rを使った統計解析」の方が、学生には魅力的に映ります。

4. 研究室の雰囲気・人間関係が見えるか

学生の本音:「他の研究室と何が違うの?」
競合研究室と似たような情報発信では、選ばれません。「この研究室でしかできないこと」を明確に打ち出す必要があります。

効果的な情報:
・独自の研究設備・機器(「国内で3台しかない〇〇を保有」)
・教授の独自のメソッド(「△△理論を提唱した本人から学べる」)
・特殊な産学連携(「NASA/Google/トヨタとの共同研究」)
・グローバルネットワーク(「毎年5名が海外研究機関に短期留学」)
・受賞歴・表彰歴

研究室の魅力を伝えるための差別化戦略

学生に訴求すべきポイントが分かったとしても、それをどう伝えるかが重要です。ここでは、競合研究室との差別化を実現する具体的な戦略を紹介します。

戦略1:競合研究室の分析から始める

学生はそれぞれの研究室、研究者を必ず比較検討します。
競合研究室を分析し、研究室の特徴や強み、独自のポジションを探していきます。

ホームページ設計で実施すべきこと:
・学内の同じ研究科・専攻の研究室ホームページを最低5つチェック
・競合が訴求している内容をリストアップ
・自分の研究室との違いを洗い出す
・競合が書いていない「自分だけの強み」を特定

注意点:
他の研究室と同じことを書いても効果が薄れます。「みんなが書いていないこと」を書くことで、差別化が生まれます。

戦略2:「研究内容」ではなく「学生の未来」を語る

研究室ホームページの最大の失敗は、研究者視点で書かれていることです。学生が知りたいのは「研究の詳細」ではなく「自分がどうなれるか」です。

視点の転換例:
【×】研究者視点:
「当研究室では、深層学習を用いた画像認識技術の研究を行っています」
【〇】学生視点:
「AIエンジニアとして、Google、Preferred Networks、トヨタなどで活躍する卒業生を多数輩出。最先端の深層学習技術を学び、あなたも世界を変えるAI人材に」

ポイント:
主語を「私たちは研究している」から「あなたは〇〇になれる」に変える
研究内容→キャリア→社会的インパクト、という順で語る
具体的な企業名、卒業生の実績を入れる

戦略3:「選択肢の広さ」を強みにする

「うちの研究室は、みんなバラバラのところに就職する」――これを弱みと考える研究者がいますが、むしろ最大の強みになるかもしれません。
特に、進路に迷っている優秀な学生ほど、「まだ将来を決めきれていない」という不安を抱えています。そんな学生に対して、「どんな道に進んでも通用するスキルが身につく」というメッセージは極めて有効です。

ホームページの記載例
「研究者になりたい人、企業で活躍したい人、起業したい人。
どんな未来を描いていても、この研究室で培ったデータ分析力は、
あなたの武器になります。

過去の修了生は、こんな場所で活躍中:
– 大学教授・研究者:30%
– コンサルティングファーム:25%
– IT・テック企業:20%
– 金融・保険:15%
– 製造業・メーカー:10%

「あなたの可能性を、狭める必要はありません」

戦略4:コンテンツの「更新頻度」で差をつける

競合研究室のサイトを見ると、何年も更新されていないケースが多々あります。これは大きなチャンスです。

効果的な更新コンテンツ:

・研究室ニュース(月1回程度)
・学生の学会発表・受賞報告
・新しい研究成果の平易な解説
・イベント報告(写真付き)

学生は「活気のある研究室」を求めています。定期的な更新は、それを示す最も簡単な方法です。

戦略5:「教授の人となり」を徹底的に見せる

業績リストだけでは、教授の人間性は伝わりません。特に優秀な学生ほど、「この先生の下で学びたい」という感情で動きます。

効果的なコンテンツ:
・教授の研究哲学(500-1000文字程度)
・学生へのメッセージ動画(3分程度)
・研究者を目指したきっかけ
・趣味や関心事(研究との関連性を添えて)
・失敗談・挫折経験(人間味を出す)

研究室ホームページ制作27年間の経験から言えるのは、教授の人間性が見える研究室ほど、学生が集まるということです。完璧な研究者より、情熱と人間味のある研究者の方が、学生は魅力を感じます。ある意味、ここがいちばん重要な差別化なポイントになるかもしれません。

まとめ:学生視点からWEBコンテンツを見直す

「優秀な学生に来てほしい」「他の研究室に負けたくない」と考えているなら、まずはご自身の研究室を客観的に分析することから始めましょう。そして、学生の視点に立った情報発信を設計を心がけていただければと思います。

研究室ホームページは、学生募集、共同研究者・企業の募集、スタッフ募集、研究成果の可視化・助成事業の評価など、進学、連携、支援、採用といった意思決定を助ける装置の役割を担っています。

お知らせ、研究紹介、研究室について、スタッフ紹介、研究成果といった、よくあるコンテンツだけではなく、課題や目的に合わせてコンテンツを設計していくプロセスがより重要になると考えます。

文責:金子弘行

2026年1月20日
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